この話はサブストーリーです.本編とはまったく関係ありません.が,人物関係上Ordinary 5.を読んだ後に読むことをお勧めします.
事の始まりは,昨日橋野家にかかってきた一本の電話だった.
「はい,もしもし.橋野です」
「あ,もしもし,セーヤ君?」
受話器から聞こえてきたのは聞きなれた声だった.
「コトネちゃん? 何か用?」
「あのさ,あしたひま? ひまだよね?」
「まあ,特に何もすることはないけど…….どうしたの?」
「明日ね,ユズと一緒に遊びにいく約束してるんだけど,セーヤ君も一緒に行かない?」
「遊びに? ……どこへ?」
「えっとねぇ……,最近隣町にオープンした総合アミューズメントパーク……っていうか遊園地? そこに行くつもりだけど,ユズと2人きりで行くよりセーヤ君も誘って3人で一緒に行ったほうが楽しいかと思ってさ.ユズの提案なんだけどね」
「赤吹さんが?」
「そう.ね,いいでしょ? 一緒に行こう?」
「そうだなあ……,じゃあ行こうか」
「ホント? それじゃあね,駅前で9時半に待ち合わせって事で」
「うん,分かったよ」
「じゃあまた明日ね.バイバイ」
翌日.
セーヤは待ち合わせ時刻よりも十分ほど早くついたが,どうやら一番のりのようだった.
(9時半……でよかったよな)
早く着いたもののコトネの姿もユズカの姿も見当たらなかったので,少し不安になった.
そのまましばらく待っていると,セーヤの正面からいかにも怪しい様子をした人が彼の方に向かって歩いてきた.
(うわー,ものすごい怪しい……)
セーヤは直視することを避けていたが,その人物は彼の近くへどんどん歩み寄ってきた.そして,セーヤの真正面に立った.つばのせいで顔がよく見えないほど帽子を深々とかぶり,比較的前かがみでその人物はあたりをキョロキョロと見渡していた.
「……おはよう,橋野君」
挙動不審者はそう言った.突然名前を呼ばれて驚いたが,その声には聞き覚えがあった.
「もしかして……,赤吹さん?」
「うん,そうだけど?」
帽子のせいで顔はあまり見えなかったが,どうやら「どうしたの?」の言わんばかりの感じがした返答だった.
「……めちゃめちゃ怪しいよ,その動き」
「だ,だって,一応歌手だし……,それに,迷惑はかけられないから……」
「迷惑?」
「うん,もしファンの人が私に気付いて話しかけてきたら2人に悪いでしょ? せっかく遊びに行くのに……」
「なるほど…….有名人って大変だね」
二人が軽く話をしていると,最後の一人がやっていた.
「おはよー,ユズにセーヤ君.2人とも早いね」
「おはよう.ちょうど時間通りだね」
「おはよう,コトネはいつも時間通りなんだよね.遅れることはないけど早く来たこともないよね」
「あはは,遅刻してないだけいいじゃん.それよりさ,2人で何の話してたの?」
「ん? ……有名人の大変さについてちょっとね」
セーヤはユズカのほうをチラッと見て答えた.それに気付いたコトネはユズカのほうを向いていった.
「もう,ユズったら.そんなに帽子深くかぶったらユズのかわいい顔が見れないっていつも言ってるでしょ!」
「だ,だってぇ……」
「そんなことしなくても案外気付きにくいものなんだから…….ねえ,セーヤ君も帽子を深くかぶりすぎって思うでしょ?」
「えっ!?」
急にコトネからふられて驚いたセーヤだったが,
「そうだなあ,でも,有名なんだから仕方がないかもしれないけど,僕たちのことはあんまり気にしなくてもいいと思うよ」
とだけ答えた.
「そうそう,ユズってば私たちのこと心配しすぎなんだって.私たちは親友なんだから」
「そうそう」
セーヤもコトネの言うことに相づちした.
「……ありがとう」
帽子の下からは,ユズカの笑顔がこぼれ出た.
「じゃあ行こうか」
三人はユズカを間に挟む形で並び,駅の構内に入っていった.
隣町の駅を降りて駅前からのバスに乗ること二十分ほど,どうやら目的地の遊園地,もとい,総合アミューズメントパーク施設に着いた.
入園口の前でバスは停車し,三人はバスを降りた.
「な,なんじゃこりゃ~っ!?」
セーヤは驚いた.驚くのも当然で,この遊園地は某ねずみさんランドを幾分か規模を縮小した感じの,しかし派手やかさは全く劣っていない,そんな感じのところだったからだ.
「遊園地っていうから…….ぜんぜん想像していた場所と違う……」
「何だ,セーヤ君.ここ知らなかったの?」
「知らないも何も,隣町にこんなすごいものができてたなんて…….お金もっと持ってくればよかった.入園料とか払えるかな……」
「それなら大丈夫」
ユズカは腰につけていたポーチから紙切れを三枚取り出した.
「お仕事の知り合いからここのフリーパスをもらったの.都合が悪くなったからって.……コトネから聞いてなかった?」
「そういえば,言うの忘れてた,かも……」
無事(?)入園した三人は,さっそくジェットコースターへと向かった.さすがに日曜日だったので,カップルはもちろん親子連れもたくさん見かけた.オープンして日もまだあまり経っていなかったからか,物珍しさからか入園者数はまだ十一時前なのにとても多かった.
「ここって,夜はきれいなイルミネーションで人気のデートスポットになるらしいよ.この前,何かの雑誌で読んだことある」
「そうなんだ.……確かに,今はどちらかというとカップルより親子連れのほうが多いかな」
周囲の人たちをキョロキョロ見渡しながら答えた.
「セーヤ君は,私とユズと,どっちと夜にここに来たい?」
「えっ?」
突然のとんでもない質問にセーヤは面食らってしまった.
「えっと,その~……」
「ちょ,ちょっと,コトネったら,橋野君困ってるじゃない!」
「アハッ,冗談冗談,ちょっとからかってみただけ.ごめんね,セーヤ君.……もちろんユズとだよね~.なんたって今や大人気の歌手だからね.私より全然かわいいし」
「そ,そんな.……コトネのほうが橋野君とお似合いじゃない.小さいときから知ってる,“幼馴染”の仲なんでしょう?」
「……あっ,ほらっ,お目当てのジェットコースターが見えてきたよ」
そう言うと,セーヤはその場を逃げるようにジェットコースターの方へ走っていった.
「あっ,待ってよ!」
2人もセーヤの後を追うように走った.
「しっかし,さっきから激しめの乗り物ばっかり乗って…….ちょっと疲れた……」
「男の子が何を言ってるの.どんどん乗るわよ~!」
コトネはまだまだ元気で張り切っている.三人とも,ジェットコースターに代表される,いわゆる激しい乗り物は好きで大丈夫だったが,最初から立て続けに激しいものに乗っているのでさすがにセーヤとユズカは疲れてきた.
「そろそろいい時間だし,ごはんでも食べようよ,コトネ」
「そう? それじゃあそうしよっか」
意外にもコトネがすっかり納得してくれたので,三人は近くにあるレストランに入った.お昼がもっとも混む時間帯は過ぎていたので,あっさりとテーブルにつくことができた.三人はそれぞれ好きなものを注文して料理が来るまで待っている間,コトネはユズカのほうを向いていった.
「ユズったら……,ごはん食べるときぐらい帽子取ったら?」
「えっ……」
確かにコトネの言うとおり,今からごはんを食べるにはおよそ似つかわしくないほどユズカは帽子を深々とかぶっていた.
「だめだよ…….2人に悪いから」
「大丈夫だって.だいたい,ここに来てからいままで,誰も気付なかかったじゃん.取ったって誰も分からないし,それに私たちはぜんぜん迷惑じゃないよ.ね?」
コトネはセーヤのほうを見てウインクしてきた.もちろんその意味が分かっていたセーヤは軽く相づちを交わした.
「……じゃあ,……これでいい?」
そう言うとユズカは帽子は取りはしなかったものの,下向きにしていた帽子のつばを上向きに直した.そのおかげで,今まで見れなかった彼女の顔や表情がはっきり分かるようになった.しかしユズカは下を向いた格好をしていたので,結局あまり変わらないようだった.
「う~ん……,さっきよりかは良くなったけれどね.でも仕方ないか.」
「ごめんね」
「ううん,謝る必要なんてないんだから.ユズはユズでがんばってるんだもん.私たち,応援してるんだから」
「うん,ありがと」
そうこうしているうちに料理が運ばれてきた.三人の目の前にウエイトレスは料理を置いていった.ユズカが頼んだ料理をウエイトレスがユズカの前に置こうとした時,
「あれ,もしかして……」
ウエイトレスがユズカのことに気がついたようだった.
「えっ……,あの~……」
ユズカは困惑しているようだ.そのときコトネが,
「あ,彼女,如月サツキに似てるでしょ~.良く似てるって言われるんですよ.ね,ユズカちゃん」
“ユズカちゃん”をちょっと強調してフォローした.
「あ,そうなんですか? でも,本当に似てますね」
「は,はい.困ってしまうくらいですよ」
「大変ですね.それじゃあ,ごゆっくりどうぞ」
そういってウエイトレスは彼らから離れて自分の持ち場に戻っていった.
「……ふぅ,ありがと,コトネ.いつもながらナイスフォローで」
セーヤは気付かれない程度に今のウエイトレスを見てみると,彼女はほかのウエイトレスに何かを話しているみたいだった.おそらく今のことを話しているのだろうと思ったが,ここはとりあえずあのウエイトレスを信じて何も言わないことにした.
「いつも気付かれたときはそうやってコトネちゃんがフォローするの?」
「うん,まあ……,ユズったらこんな格好してるから滅多にばれないんだけど.ばれたらとてもそっくりだけど違う人だってごまかしてるの.でも……,たいていは携帯のカメラなんかで撮られちゃうんだけど.違うって言ってるのに,『記念に』って」
「……そうかぁ,僕たちとは次元が違うなあ.でも,それだけファンが多いってことはうれしいんでしょ?」
料理を口に運びながら感慨深そうにうなずいていた.
「うん……,ファンのみんながいることはとてもうれしい.けど,仕事とプライベートはまったく別だから,プライベートのときはそっとしてほしいっていうのが本音かな…….仕事のときはいくらでもいいんだけどね.橋野君もそう思うでしょ?」
「う~ん,仕事してないからなんともいえないけど,そうなのかもしれないね」
料理を食べ終わった後もしばらくの間その場で話をしながら休息を取り,おもにユズカの歌手という仕事についての話を二人は聞いていた.
レストランを出ると,入る前よりもさらに人が増えている感じがした.ユズカはすかさず再び帽子を深くかぶり,コトネとセーヤはそのさまを見たが何も言わなかった.
コトネが乗りたい乗り物があると言うので,コトネが率先していく形で,セーヤとユズカはコトネの後をついていった.といってもほとんど最初からコトネが乗りたいものに乗って,そしてそれはすべて激しいものだった.
「それにしても,歌手っていうのも意外と大変なんですね.さっきの話を聞いてたら,芸能界っていうところは楽しいってイメージがなくなったよ」
「ハハ,確かに大変なこともあるけど,私はこの仕事が好きだから.やっていて後悔はしてないよ.……ううん,ほんのちょっとだけ後悔してるかな」
「……赤吹ユズカって見られないこと?」
そう聞いてユズカのほうを見ると,一瞬だけとても悲しそうな表情をセーヤにのぞかせたが,すぐにいつもの表情に戻って,
「うん.それもあるし,あとはこうやって遊ぶことができるような自由な時間が少ないことかな.学生のときにしかできないことも満足にできないから」
と答えた.
「学生のときにしかできないこと?」
「うん.こうやって学校のお友達と楽しく遊ぶこととか!」
ユズカはセーヤのほうを見てにっこりと微笑んだ.その表情を見てセーヤはドキッとしてしまったが,その上で何か心が締め付けられるような,一抹の哀しさのような,そんな感じもした.
「でも……,本当に,今の学校に転校して,ううん,最初に出会ったのが橋野君で本当に良かったって思ってる.それに今はコトネもいるし.こんなに気が楽になったの久しぶり.……前の学校なんか,“サツキ”って呼ばれるたびにどんどん気が滅入っちゃって.家に帰って自分の部屋に入ったら,知らない間に涙が出てて…….あのころはよく泣いたなあ」
「赤吹さん……」
「あ,でもね,前の学校の友達もいい人ばかりだったんだよ.ただ……,私をサツキって見ていただけで全然みんなには悪気がないのは分かってる.もちろん,今の学校のみんなもね.……だから,余計に心苦しくなっちゃって.落ち込んじゃうと考えることまでダメになっちゃって,私一人だけが苦しんで,私だけが我慢すればいい事だって思うようになって…….コトネにこのことを言ったら怒られちゃった.『私に相談もなしに,なに勝手に決めちゃってるの』ってね.あの時は2人で泣いちゃったんだっけ」
「コトネちゃんと赤吹さんって,本当に仲良しなんだねえ.今の話し聞いてたら,なんかうらやましくなったよ.……僕もコトネちゃんのこと知ってるつもりだったけど,やっぱり僕の知ってるコトネちゃんは昔のコトネちゃんだったみたい」
「さあ,やっとついた.……うわ~,けっこう並んでるなあ.どうしよっか?」
突然コトネが二人に話しかけてきた.
「どうしよっかって,乗るつもりなんでしょ?」
「へっへ~,さすがユズ,分かってる~!」
「30分ほど待たないといけないみたいだけど……」
セーヤの一言をコトネは聞かないふりをして,ユズカを引っ張って列の最後尾に並んだ.
「ほらほらぁ,セーヤ君もこっちこっち!」
「……やっぱり昔とそんなに変わってないかも」
セーヤは自分を納得させるかのようにそう言って,二人のところへ行った.
陽も落ち始め,西の空がほんのり赤色を帯びてき始めたころ,周囲にはカップルの姿が目立つようになってきた.むしろ,親子連れの数が減ってきたと言い換えてもいいが,三人もそろそろ帰ろうかと相談していた.
「え~っ,もう帰るの~?」
と駄々をこねているのはもちろんコトネで,セーヤとユズカはこのワンパク娘をどうやって連れて帰るのか暗中模索状態だった.
「じゃあさ,最後にみんなで観覧車に乗ろうよ.ね?」
それで帰れるならと二人は了承し,三人は観覧車の方へと歩いていった.
「これはまたけっこう並んでるなあ」
時間も時間なのでお昼過ぎと比べると列の長さは短かったが,それでも十分ほど待たされるくらいの長さだった.前を並んでいるのはやはりカップルが多い.三人は列の最後尾に並んで,順番が来るのを待った.
「お待たせしました.どうぞ」
係員の人に誘導されて,三人はゴンドラに乗った.
「うわ~,いい眺め~.ほらほらユズも見てみなよ,ほら~,あそこ」
「ホント~,私たちの町まで見渡せるね~.たっか~い!」
コトネとユズカはゴンドラから見渡せる外の景色を見て楽しそうに騒いでいた.セーヤは,ユズカが帽子を取っていることに気付いた.
「ほら,セーヤ君もさ,私たちなんか見てないで,外を見たらどう?」
「なっ,べ,別に2人を見てなんかないから.僕も十分楽しんでもらってますよ」
とは言ったものの,本当は二人を見て本当に仲がいいんだなと,ちょっとうらやましがっていた.
三人が乗ったゴンドラがもうすぐ下につこうというときに,ユズカは例のように帽子を深くかぶりなおした.
観覧車を降りた三人は,そのまま出口まで歩いた.
駅に着いたときはもうあたりは暗くなっていた.
「さて,どうしよっか?」
「どうしよっかって,もうお開きなんじゃないの?」
「え~っ,もう解散? もうちょっと3人でいない?」
コトネはまるでもうしばらく一緒にいるということが予定だったかのように,驚いたように言った.
「僕は別にいいけどさ……」
と言って,セーヤはチラッとユズカのほうを見た.
「赤吹さんは明日は大丈夫なの?」
「あ,うん,大丈夫」
コクッとうなずいた.
「じゃあさ,あそこに入ろうよ」
そう言ってコトネが指をさす方向には喫茶店があった.
三人は一日中歩き回った棒のような足を動かして,その喫茶店まで歩いていった.
中に入ると客の数はあまりいなかったが,数少ない客はそのほとんどが若い男女のペアだった.お昼と同じように,一つのテーブルを三人が囲むように座り,リストを眺めた.ウエイトレスが注文を聞きに来たので,ユズカはミルクティーを,コトネはレモンティーを頼んだ.
「あ,僕は……お水でいいです」
注文してから,そして飲み物が届いてから,三人はいろいろなことを話した.話題を出すのは専らコトネで,ユズカとセーヤはコトネの出す話を相づちを打ちながら聞いていた.
「そういえばさ,前から聞きたかったんだけど,セーヤ君って彼女とかいるの?」
口に水を含んでいたセーヤは突然の質問に噴いてしまいそうになったが,何とかこらえてそのままゴクッと飲み込んだ.
「はあ,はあ,何だよ,突然……」
「私の知ってるセーヤ君なら,彼女なんて作ってないと思うんだけど?」
「……分かってるじゃない.いないよ.ミミならいるけどね,彼氏」
「えっ,ミミちゃんって彼氏いるの!? ……まあ,ミミちゃんはかわいかったからなあ.昔あれだけかわいかったんだから今はもっとかわいいはずだよね」
「ミミって,確か橋野君の妹だよね?昔,お盆のときにコトネのうちに行った時に一緒に遊んだ覚えがあるよ」
「赤吹さんは兄弟っているの? コトネちゃんはひとりっこだよね?」
「ううん,私もコトネと同じひとりっこ.だからちょっとうらやましいかも.兄弟がいるって」
「う~ん,いたらいたであれだけど,僕1番上だからさ,お兄ちゃんかお姉ちゃんがほしいって思ったことはあるかな」
「ひとりっこの私たちには贅沢なことだよ,それは.でさ,セーヤ君彼女いないんだよね? じゃあさ,私が彼女になってあげようか?」
コトネのまさかの発言に,またナイスタイミングでセーヤの口に含まれていた水が吐き出されそうになったがギリギリでこらえられ,そのままゴクッと飲んだらはいってはいけない場所に入ってしまったらしく,むせてしまった.
「んぐっ,ゴホッゴホッ…….突然,何を……」
「だってさ,私たちってお互いのこと結構知ってるしさ.それに,セーヤ君が彼氏なら別に問題ないかなぁって」
「そんなこと……,急に言われても……」
セーヤはまだ喉の調子が良くならず,喉を手でおさえながらうつむいた.
「……ハハ,冗談よ,冗談.言ったでしょ,お互いのこと結構知ってるって.だから,私とセーヤ君との関係が恋人同士になるなんてことはないって分かってるんだから.……それとも,ちょっとは私を女として見てくれてるのかな? 脈あり?」
「ハハ,がんばるよ」
そうこう話しているうちに夜も更けてきたので,三人は帰ることにした.いくら駅前といっても,大都会みたいに二十四時間いつまでも大勢の人であふれ返るはずはなく,ぽつぽつと人が見られる程度だった.
「今日,実は遅刻しそうだったから親に乗せていってもらったんだよね.さっきメールがあって,もう駅前に迎えに来てるらしいから,行くね?」
「うん,バイバイ,コトネ」
二人に手を振りながら走って駅まで戻っていった.
「じゃあ,僕も……」
「あっ……」
行こうと振り返ったらユズカの声がした.
「ん? 何,赤吹さん」
「う,ううん,なんでもない,……バイバイ,橋野君」
「うん,それじゃ」
そういって今度こそ帰ろうかと思ったら,袖口をユズカにつかまれていた.
「あの~」と言いそうになったが,つまんでいた指がかすかに震えていることにセーヤは気付いた.
「あ,ごめんなさい…….あの,橋野君,お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「あの,笑わないでね.……恐いから,一緒に帰ってくれない?」
「あ,うん,いいよ.でもちょっと待って.駐輪場まで行って自転車取ってこないと」
「あ,私も行く」
二人で駐輪場まで行き,セーヤは徒歩のユズカにあわせるため降りて自転車を押して歩いた.
「いつもならコトネが一緒に帰ってくれるんだけど…….今日は車らしいからね」
「歩きってことは,駅の近くに住んでるの?」
「うん,仕事にも便利だし」
駅の周辺ということで電灯もそれなりにあるし決して真っ暗というわけではなかったが,人がそんなにいないからなのか,見慣れた場所であるはずなのにちょっと不気味に見えた.
「私,2年ほど前かな,夜に1人で帰ってたら急に男の人に襲われて……,そのときはなんとか逃げ切れたけど,あの時から夜に1人で出歩くのは恐くなっちゃって.……あっ,ここまででいいよ」
「大丈夫? 家の前までついていってあげようか?」
「ううん,ここだから」
みると新しめのマンションの前に2人はいた.
「あらら……,駅に近いって,ここから駅が見える」
「ご,ごめんね.これだけの距離なのに……」
「ううん,仕方ないよ.……それじゃあ」
「おやすみ」
セーヤは自転車にまたがりサドルに腰を下ろし,自転車をこいで家路についた.
この後,ユズカのことを忘れてしまっていたコトネがユズカに電話をかけて謝ったが,なぜかユズカはそんなに怒っていなかった.
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