第7話 ROUND2
「たいした強がりですね・・・いや、まさかホントに自信があるんですかね?だとしたらたいしたお方ですよ、ホントに。」
イタリはため息混じりにカリューに言う。
「いやいや、自信があるとかそういうレベルじゃねえよ。俺が勝ってお前らが死ぬ。絶対だ。」
片ひざをついたままのカリューもまた、ため息混じりにイタリに言い返す。
「矢が顔を掠めただけあって、毒が頭に回ったようですね?毒のせいでおかしなことを口走っているのでしょうか?」
「なかなか面白いことを言うな、アンタ。うん、面白いよ。」
カリューの表情が変わる。鋭い眼光、かすかに口は笑っている。
「これは俺の持論だが、強いやつってのは追い詰められたときに神がかり的な強さを発揮するヤツ。そして相手が勝利を意識した瞬間の油断を確実に逃さないヤツ。」
「うーん、仮にあなたがそうだとして、別に私は油断してませんよ?」
「どんなヤツでも、心のどっかじゃそういう油断をしてるもんだ。…さて、おしゃべりはこれでおしまい。いくら致死量に達しない量の毒とはいえ、多少体に回ってふらついてきた。これで俺の動きはさぞかし鈍くなってるだろうよ。お望みどおりの展開だなぁお二人さん?」
カリューが立ち上がり剣を構えた。眼光の鋭さは増している。その構えからは、毒に犯されている者のものとは思えない気迫が感じられる。イタリはそのカリューと向き合った瞬間、背中に悪寒が走るのを感じた。
(な…なんだ!?この迫力は…?)
イタリはその迫力にわずかにたじろぐ。そして、カリューはその瞬間を逃さず接近、剣を振りおろす。イタリは盾で受け止め、カウンターの突きを繰り出す。カリューはかわすが、剣の切っ先は顔を掠めた。
「やはり動きに先程までのキレがないですね!それでは相手が私一人でも勝てない!」
バックステップで距離をとるカリューめがけ、ホンキーニの放った矢が飛ぶ。カリューはそれを見越していたが、かわしたときにわずかにバランスを崩した。その一瞬でイタリが接近し、カリューの心臓めがけまっすぐに剣の切っ先を突き出す。
「もらった!」
二人が同時に叫んだ。
わずかに甲高い音―剣と剣がぶつかる音が聞こえた。イタリの剣はカリューの心臓には突き刺さらず、カリューの左肩を切り裂いた。カリューは左手の剣で外側にイタリの剣をはじき、軌道をそらしていたのだ。イタリの顔には一瞬驚愕の表情が浮かんだが、それはすぐに消えた。かわりに浮かんだ表情は、苦悶の表情―カリューがすぐさま右手の剣でイタリの手を切り落とす、激痛にゆがむ顔だった。カリューは左肩の痛みに表情を変えることなく、そのまま右手の剣で無防備な盾を弾き飛ばし、続けてイタリの首めがけまっすぐに左手の剣の切っ先を突き出す。軌道はそれることなく、剣は喉を貫く―。
一瞬だった。ホンキーニが弓に矢をつがえ標的に向けたときは、既にそれらの出来事が起こった後だった。
「毒で弱っていようが、俺はお前のわずかな油断を逃しはしない。追い込まれた天才の恐ろしさ、侮るなよ。」
剣を引き抜き、倒れるイタリに背を向け、ホンキーニのほうへ向き直りながらつぶやく。イタリはそれに返答することはない。
「さて、次はお兄さんの番だ。仲間が目の前でやられたというのに、無表情のままなんてつめたいね〜。普通『おお、我が友よー!!!』とか叫ばないか?」
シニカルな表情に変わっているカリューがホンキーニに向き直り言う。しかし、さっきまでの気迫は変わっていない。
「そんな事言ったヤツを戦場で見たことは無いな。」
ホンキーニは無表情に弓を構えたまま答えた。カリューは声を上げて笑う。
「まぁ、そこまでのオーバーリアクションは俺もお目にかかったことはないんだが、大抵のヤツはもうちょっと怒ったりするだろ?…って、バカみたいなトークはこの際どうでもい…。」
ホンキーニが矢を放つが、カリューは矢を剣で弾き飛ばす。
「お、実はけっこう怒ってるのか?まぁそれはいいとして、もうわかってるだろ?そんなあたりもしねぇ矢を撃つのは時間と労力と矢のムダ、最後は一対一の接近戦でやり合おうぜ。そらよっ。」
カリューは切り落としたイタリの右手から剣を奪い、ホンキーニに向かってほうり投げる。剣は彼の足元に落ちた。
「仲間の剣で仇と戦うなんて、燃えるシチュエーションだろ?まぁ、仇は取れないけどね?」
そう言いながら、カリューの表情が先程までの鋭いものに戻っていった。ホンキーニはその剣を拾い、代わりに弓と矢を地面に置く。
「俺をなめてくれるなよ、自分で言うのも何だが元暗殺部隊ナンバー1だ。剣の腕もエンペラーズ・アームのほかのメンバーに劣っているとは思ってない。」
「ほぉ、それは楽しみだ。まぁ安心しろ、俺はこいつとは違うから」
カリューは冷たい目でイタリの死体をちらりと見る。
「…行くぞ。」
ホンキーニが一気に間合いをつめる。速い、イタリと同等かそれ以上のスピードだ。剣がぶつかり、火花を散らす。ホンキーニは右―カリューの左肩の方向―に回りながら、さらに剣を振り続ける。カリューも右に後ろに動きなんとかかわし続けるが、すばやい連続攻撃におされ気味だ。毒を受けて体が鈍っているせいもあるが、イタリの突きをそらしきれずに受けた傷の痛みが増し、左手が思うように動かない。
「怪我している左からの攻撃とは、いい判断だ。表情には出てなかったと思うんだが、結構痛いのがばれちゃってたか。別に使えないわけじゃないんだが、ほらな!」
カリューがなんとか左手を突き出し、ホンキーニの剣を受けとめる。しかし左肩に激痛が走った。その痛みに耐え切れず、カリューの剣はホンキーニの剣に押し返された。なおもホンキーニは攻撃の手を休めずにカリューを攻める。
「なるほどいい腕だ、『弓』…いや、『剣』だな、俺が保障する。いくら俺の動きが鈍ってるといっても、なかなかこっちにペースを握らせてくれねぇとは…」
「言っただろ、なめてくれるな、と。」
カリューは一度大きく間合いを取ろうと、大きく後ろに跳ぶ。しかし着地の瞬間、バランスを崩し片ひざをついてしまった。
「う…思ったよりも体がやばいか…?」
ホンキーニはすばやく間合いを詰めて来る。カリューの表情がさらに鋭く変わる。そして接近するホンキーニが間合いに入る直前、右手の剣を投げつけた。投げた剣は力強く飛ぶ。ホンキーニはその剣を弾き飛ばすが、突進が一瞬止まる。そこへカリューが体勢を立て直し、間合いに飛び込み、再び痛みに耐え左の剣を突き出す。しかしカリューの体は思ったよりもすばやく動かず、ホンキーニに軽々とかわされてしまった。かわしたホンキーニがカリューめがけ剣を振り下ろす。カリューは横に跳び、転がってその剣をかわす。そのまま起き上がりなんとかすばやく体勢を立て直すことができたが、さらにホンキーニの攻撃が続いた。
「なに!?」
突然、ホンキーニの左手からナイフが放たれた。体勢を立て直したばかりのカリューはすばやく反応できず、ナイフが腹に突き刺さる。前のめりにうずくまったカリューにホンキーニが迫る。カリューが体を起こしたときには、ホンキーニは既にカリューの喉めがけ剣を突き出していた。
血が飛び散った。ホンキーニの剣はカリューの左肩を貫いた。わずかにカリューが体を右にずらしたのだった。しかし左肩には更なる激痛が走り、カリューの左手から剣が落ちた。しかし、カリューはそのまま前進する。左肩に剣がさらに深く入り込む。それでも前進、かすかに表情を変えたホンキーニに迫る。そして自分の腹に刺さったナイフの塚を握る―。
「だぁぁ!」
ナイフを引き抜き、そのままホンキーニの喉元めがけ突き出した。喉を貫く。そしてカリューはそのままホンキーニとともに前のめりに倒れこんだ。
「やっ…た、が、これは…」
カリューはあわてて持っていた解毒剤を取り出し、そしてすばやく飲む。
「ナイフにまで毒が塗ってあるとは、さすがだ…」
左肩には剣が刺さったままで、腹からは血を流し、さらに毒におかされながらも、カリューは満足そうに笑った。
「でかい口たたいといて、久しぶりに結構やられたな…。まぁでも、この戦い、最高だったよ、お二人さん…。」
カリューはもう声を聞くことも話すこともできない二人に、そう告げた。
[…to be continued]