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第5話 「災厄」vs「剣」

 

 バラクート帝国の首都、アムダガダンでは、いつもと変わらず―いや、いつも以上の兵隊達がうろついている。あちこちに武力行使をしかけ領土を拡大してきたが、最近は他国からの反撃も激しくなっており、いつ他国からの奇襲があるかも分からない上、最近ではテロ活動も頻繁に起こるようになってきたからだ。少し前には、鉱山基地が奪還され、そこに駐屯していた「エンペラーズ=アーム」の一人もやられたという報告もあり、警備の厳重さに拍車がかかっていた。常に兵士達が街中で目を光らせているため、街の中は殺伐としている。世界中を旅する冒険者達も、そんな雰囲気を嫌い最近はめったにバラクート領には近寄らなくなってきた。

 

 アムダガダンにも酒場がある。しかしそこに今客はいない。もうすぐ勤務を終えた兵士が酒を飲みに来るからである。兵隊がいるところで飲むと酒がまずくなる、といって夕方からはめったに客が来ない。酒場の主人も兵隊を相手に商売するのはいい気分ではないが、冒険者が遠のいている現在、主人にとっては貴重な客であるし、店を閉めれば酒を飲みたがる兵隊達に何をされるか分からないため、毎日商売しないわけにはいかない。主人が忙しくなる時間の前に仕込みをしていると、客が一人入ってきた。主人は顔を上げ、声をかける。

「お、この時間に客とは珍しいな。しかも見たところ、冒険者だな。ますます珍しい。」

「そんなに珍しいか。こんなこと言うのもなんだが、やっぱこの街に誰も来たくないのかな?兵隊がうろうろしてるし、街の居心地が悪いったらねぇや。」

「それは俺達一般人もだ、まぁ自由を愛する冒険者ならなおさらそうかな。しかしな、今からその兵隊が飲みに来るんだが、それでもここで飲みたいか?」

「じゃあ兵隊が来るまでに飲むよ。」

客はそのままカウンター席に座ると、ビールを注文した。それからマントを脱ぎ、隣のイスに置く。

「ほぉ、二刀流か。ホントに珍しい客だな。」

主人が客の腰に下げられている二本の剣を見て言う。二刀流は二本の剣を扱う腕力と技術が必要なため、使い手はそう多くなく、また荷物が多くなるのを嫌う冒険者ならさらに少ない。

「まぁね、俺は天才だから。」

「ふははは、面白いなあんた。名前は?」

「カリューだ、よろしく。」

カリューは名前をいい、差し出されたビールを受け取り一気に飲み干した。そしてそのままもう一杯注文する。

「ところでおっさん、ここに兵隊が来るって言ったが、『エンペラーズ=アーム』ってのは来るのか?そいつらと是非一戦交えたいんだが。」

その言葉を聞いた瞬間、主人は一瞬動きを止め表情を変える。

「…バカなことを言うな、あいつらは普通じゃない。あいつらがいるからこそこの国が戦争で連戦連勝しているといっても過言じゃないんだぞ、いわばこの国の軍隊の要だ。返り討ちにあうに決まってる!」

主人は険しい表情をしたたま一気に言い、ビールをカリューの前に置く。

「それを飲んだらこの国を発つといい。ここにいてもいいことなんてないぞ。」

カリューはそのビールを一口飲み、にやりと笑う。

「…来ることを否定しないってコトは、そのうち来るってことでいいのかな?」

カリューは懐から純金製のエンブレムを取りだし、主人に見せる。そのエンブレムには槍がかたどられ『EMPEROR’S SPEAR』と刻まれている。これは、鉱山街のサッバーノの部屋にあったもので、鉱山基地を発つ前、売れば旅金の足しになるだろうと街の人が礼として渡してくれたものだ。しかし売らずとも金はある程度持っていたため、ここまで来てもそのまま手元に残っていたのである。そのエンブレムを見た主人は目を丸くする。

「これは…『エンペラーズ=アーム』のエンブレム!…鉱山基地のひとつが陥落し、『槍』がやられた、と酔った兵士が言っていたが…まさか…。」

カリューはビールを飲み干し、にこりと笑う。そして酒代をテーブルに置き席を立った。

「じゃあ、酒場の前で待たせてもらうよ。店の中で戦うのはやりにくいからな。」

主人に背を向けて、カリューは歩き出す。

「…もうすぐだと思うが、今日は『王の剣』がやってくる。とてつもなく巨大な剣を振り回す恐ろしい男だ。戦場では一人で敵の半数と渡り合ったらしい。飲みにくるときでも自慢の大剣は身に着けている。」

主人がカリューの背中に向かい言うと、カリューは右手を挙げ、感謝の意を示す。

 

大剣を持った巨漢が独り現れた。その剣はすさまじい大きさで、それなりに身長があり、体格もいいカリューよりも一回り大きいほどだ。あんなものを振り回すどころか、持ち上げることが出来るものなどどこにもいなさそうである。しかしその巨漢の男は平然と背中に背負っている。カリューは酒場に向かうその男の前に立ちふさがった。

「何だ貴様は。邪魔をするならたたき斬るぜ?」

男が鋭い目つきで、低い声でそう言った。カリューはにやりと笑い、懐に手を入れた。

「俺は冒険者。最近こういうものを集めているんだが―」

そう言うと、「槍」のエンブレムを取り出し、男に見せる。男は一瞬驚いたようだが、すぐに笑い始めた。

「くくく…『槍』のやつ。こんな奴にやられたのか…こんな弱そうな奴に…。あいつ出張中に訓練サボってやがったな…。昔は俺と互角の勝負をしてたんだがな…。」

「あんたはあのおっさんよりも強いみたいな言い方だな、楽しみだ。」

カリューは二本の剣を抜き、構える。顔にはいつものように笑みが浮かんでいる。

「くくく…面白い!俺とやろうって?…ふはははは…」

『王の剣』はその巨大な剣をカリューに向けて振り下ろす。剣はその体積にもかかわらず、とんでもない速さで弧を描く。カリューはそれをバックステップでかわす。カリューのいたところに剣は突き刺さり、地面を削る。サッバーノの槍と同等、もしくはそれ以上の威力だ。

「さすが…だが。」

「だが、なんだ?今度こそ真っ二つだ!」

『王の剣』は再び大剣を振りかぶり、すさまじい勢いで振り回す。しかしカリューは平然とかわしつづける。カリューの顔から笑みが消えた。

「…ふん、やはりその程度か。」

カリューはつぶやく。それを聞き『王の剣』は目つきをさらに鋭くする。

「何を言っている…って感じの顔だな。頭の悪そうなあんたに教えてやるよ。あんたの剣の破壊力は『槍』のおっさんよりも高いかもしれないが、スピード、キレ、リーチの長さは劣ってるんだ、スキもある。出張中にサボってたのはあんたのほうじゃないか?」

「なんだと!ふざけるな!うおぉぉっ!」

『王の剣』は剣を構えなおしカリューに向かい突進する。カリューは心底がっかりした顔でそれを迎えうつ。

「もう終わりにするか、これ以上続けてもつまらん。」

カリューも突進する。そのカリューに向かい大剣が振り下ろされるが、カリューはすばやい動きでかわし、一気に懐に飛び込む。

「もうひとつ、攻撃のパターンが少ないな。」

カリューはそう言い放つと、二本の剣を巧みに操り、男を切り刻む。男は剣を落とし、うずくまった。

「くだらねぇ、とんだ期待はずれだったぜ…。」

カリューは『王の剣』の首を切り落とした。その顔は実に不満げそうである。

 

[to be continued]


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