第4話 一時の休息
司令官サッバーノ=ロカテッリの戦死により残存部隊は基地から撤退し、バラクート帝国の支配していた鉱山基地はここに開放された。冒険者カリュー=ライコネンは結局たった一人で基地攻略戦を成功させてしまったのだ。その後カリューは食料を求め基地内を徘徊しているうちに、強制労働を強いられていた奴隷達を発見した。帝国から解放されたことを知ると彼らは歓喜した。
「もともとこの町は、鉄を作り出して生計を立てていた町でした。ここの鉄はそこらのものよりもかなり上質なもので、いい値で売れたものです。帝国はその鉄に目をつけ、3年前にこの町を占領しました。この鉄を武器の材料にするつもりだったのでしょうな。」
元町長を名乗る中年の男が、食事中のカリューに事のあらましを告げた。カリューは夢中で食べながらも、話はちゃんと聞いているようだ。
「もともとあの国は技術力が高いらしいからな、いい素材が手に入ればこんないいものが出来るわけか。」
カリューは食事の手を止め、腰に下げていた剣を抜き、刀身を見る。自分の持っていた剣は折れてしまったため、兵士の持っていた剣をそのままいただいたのだ。その剣の刃は鋭く、美しく輝いている。
「なかなかの出来だよ、大量生産でこのレベルとは、恐れ入る。…まぁ、真の天才は武器を選ばないものだけどな。」
カリューは笑いながら言う。実際、カリューの使っていた剣は一般的な武器屋で売っている普通の剣で、たいした得物ではなかった。そんな剣は切れ味もよくないし、すぐに折れてしまうものだが、カリューが使えば魔物を真っ二つにし、また、丹念な手入れで剣を長持ちさせることができた。
「で、何の話だったっけ…。ああ、それで帝国に占領されて3年たったって話か。」
カリューは剣を鞘に収め、再び食事に戻り、話も戻した。
「はい、一度は反乱を試みたのですが、司令官のサッバーノが直々に鎮圧に現れました。殺さないように気を使っていたのか、武器も持たずたった一人で現れたのですが、あっという間に私達は取り押さえられました…。あの男を倒すとは、あなたは本当にお強いのですね。」
「天才だからな。」
カリューはもうお決まりの決まり文句を笑みをうかべながら言った。
「死体の処理には少々困りましたが…。」
元町長は苦笑いを浮かべながら言う。カリューは声を出して笑った。
「それであなたはこれからどうされるおつもりですか?」
食事を食べ終え一息つくカリューに、元町長が尋ねる。
「俺は冒険者だぞ、次の目的地へ向かうにきまってるさ。」
「しかし、バラクートがこの鉱山をこのまま手放してしまうでしょうか…。私にはそうはとても思えません。」
「そうだな。まぁそれはそれ、俺は俺。知ったことか。」
カリューの顔に浮かぶ笑みがシニカルなものへと変わった。
「もともとあんた達を助けるために暴れたわけじゃないし。俺はただ食料を手に入れるため、そして強い奴との殺し合いを楽しむためにやったんだよ。」
カリューは平然とそう言った。元町長の顔に驚きとともに恐怖が表れる。
「殺し合いを…楽しむ?」
「まぁな、生死を分かつというか、殺し合いのあの瞬間にはなんとも言いがたい快感があるんだよ。俺はそれが好きなんだよ、一般人から見れば異常なんだろうが…。まぁそれが分かってても、快感を感じちまうんだからしょうがねぇ。」
元町長は黙って聞いているが、カリューの静かな勢いに押されて何もいえないようである。
「おっさん、そんなに怖がらなくていいぞ。なにも人殺しに快楽を覚えているわけじゃない。俺はただ生死を賭けた戦いが好きなんであって、人を殺すこと自体はどうでもいいんだよ。俺が戦うときは生死をかけるというのが前提だから、負けた相手には死んでもらうことにしているが。」
「は、はぁ。」
元町長はようやく口を開くが、そこからやっと出てきたのはその一言だけだった。彼は静かにそう話すカリューに言いようの無い恐怖を感じ、固まってしまっていた。そして、カリューの言うことはあまり理解できない。それを察したのか、それとも話す前から分かっていたのか、カリューは苦笑いする。
「まぁ、共感しろとは言わないがな。他人の感覚なんて分かろうと思っても分かれないものだ。とにかく俺は俺の楽しみのために生きるんだよ。確かにここに残ってバラクートの軍隊とやりあうってのも面白そうだが、そんな回りくどいのは俺の趣味じゃない。」
元町長はその言葉を聞き落胆する。しかし、それを吹き飛ばす驚くべき言葉が続いてカリューの口から出た。
「それよか、本国に乗り込んで暴れたほうが面白そうだ。」
カリューは表情を変えずさらりと言ったが、元町長は目を丸くして一瞬言葉に詰まる。
「な、何を言ってるんです!いくらなんでも無茶ですよ!」
「なんでだ?」
「だいたい本国にはこことは比べ物にならない数の兵士がいま…」
「所詮雑魚の寄せ集めだ。そんなもんは問題じゃない。」
「最強の配下たちだって…」
「最強?」
カリューはその2文字に敏感に反応する。
「ええ、奴隷の時に兵士達が話しているのを聞いたことがあります。なんでも、バラクート帝国には凄腕の兵士を集めて組織した[エンペラーズ・アーム]という組織があるそうです。あのサッバーノもその一人だとか。あいつと同等、下手したらそれ以上の強者揃いの組織だそうです。いくらあなたが強いといっても、そればかりは無茶…。」
「おっさん、あんた頭よくないだろ。」
カリューはさっきとはうって変わりよくしゃべる元町長をとりあえず黙らせてから、やれやれ、とため息をつく。
「これまでの話の流れをしっかり把握してりゃ、そんなことを言ったらどうなるか分かると思うんだがなぁ?」
カリューはにやりと笑う。
「俺はこれからここがどうなるのかなんてどうでもいい。あんた達も俺がどうするかなんてことはどうでもいいと思え。食料探して暴れてたら結果的にたまたま助ける形になっちゃった、なんてことに恩を感じる必要もない。恩を感じるなら、旅の準備をさせてもらうだけでいい。」
カリューはそう言って立ち上がり、扉に向かって歩き出した。
「どちらへ?」
「一時の休息はもう終わり。目的地が決まったら、準備に入るんだよ。」