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CALAMITY 第1話 災厄のような男

 

「やれやれ、まいったねぇ。」

山道を歩く青年がつぶやく。困惑の言葉とは裏腹に、彼の顔には笑みが浮かんでいる。

彼は冒険者だ。自分の気が赴くまま、道のあるなしに関係なく自由に世界を歩き回り、それを生きがいとする人々を世の人々はこう呼ぶ。しかしそれは同時に、町に定住することの無い放浪者、いわば世間のはみ出しもの。世間の人々の中には彼らをよく思わない人も大勢おり、訪れる町で冷たい視線を送られることもしばしばである。もちろん当の冒険者たちはそんなものは気にしないが。

 この世界では町は世界のあちこちに散在しており、町と町をつなぐ街道や鉄道はごくわずかの都会にしかない。よって、冒険者達の旅は道なき道を行くことになることが多いが、道中は荒野に巣くう凶暴な魔物に襲われることもしばしばである。冒険者達の旅は命がけなのだ。しかし、一人前の冒険者は、そんな旅でも恐れはしない。むしろ笑みを浮かべながら楽しむのだという。

 この青年もその一人。まだ若いが、かなりの腕の持ち主である。しかし、今回の旅では珍しくミスを犯した。前に滞在していた町で次の目的地を決め、準備万端で出発したのだが、途中地図をなくしてしまったのである。記憶を頼りに進んでみるも目的地は見えず、食料も尽きてしまった。仕方なく山道に入り食料を探すことにし、何とか水源を発見し水は確保したものの、季節は冬、食料となりそうな動物や木の実などはなかなか見つからず、空腹のまま歩き回っているうちに、道に迷ってしまった。最悪の状況である。

「ついに俺の悪運も尽きたかなぁ~」

と、青年はつぶやく。だが相変わらず顔には笑みが浮かんでいる。迫り来る餓死の恐怖などなんのその、自分の死を恐れず、むしろこの先自分はどうなるのか、近い未来を楽しみに待っている。そんな気持ちで旅を続けている。

 

「…おや、どうやら前言撤回かな?」

日も暮れてきたころになり、ついに彼は整備された街道を発見した。今まで見てきた都会の街道と比べるとかなり見劣りするので、それほど大きくはないようだが、町が近くにあるのは間違いない。どうやら彼の悪運とやらはまだ尽きていないようだ。

街道をやや速足で歩いてゆくと、案の定、町―というよりは村といったほうがいい大きさではあるが―が見えてきた。とりあえず飢え死には避けられそうだ、と、青年はさらに足を速める。

門付近まで来た青年の目に映ったのは、鎧を纏い槍を持った見張りの兵の姿だった。しかも3人もいる。

(小さな村にしては、警備が厳重だな、装備もかなりいいもの使ってるし。…まぁどうでもいいか。)

などと思いながら、とりあえず兵士のところへ行ってみる。すると、3人の兵からいきなり槍を向けられてしまった。

「何者だ!貴様は!」

「なにものって、俺はカリュー=ライコネン。世界を又にかける天才冒険者さ、けど今は天才らしからぬミスで…」

「黙れ!この鉱山町は部外者一切立ち入り禁止だ!」

(なるほどここは鉱山町なのか、しっかしいくら冒険者だからって、態度悪すぎだなぁ)

冒険者は町の人々から冷たい目で見られはするが、彼らは村の力仕事の働き手を引き受けたり、魔物を退治したりして金を稼いだりするため、彼らを迎えることで町にとっても有益なこともある。大歓迎されることは無いが、こんな対応を受けたりすることも無い。

とりあえず青年カリューはもっと様子を見ることにする。

「いきなり戦闘体制ってのはやめてほしいねぇ。とにかく話を聞いてくれよ、サルも木から落ちるって奴でさ、道に迷って…」

「問答無用だ!ここはバラクート帝国が支配しているのだぞ!」

「んな国知らねぇよ。」

とカリューは答えたが、バラクート帝国というのはカリューも知っている。武力行使で次々と領土を拡大する軍事大国で、どの国とも友好関係がない孤立した国だ。実態もよく分からない国で、実際に行ってきた冒険者達の話を聞いても評判はよくない。そういえば数年前に鉱山町を占領したと話題になったことを思い出した。どうやらそれがここのようだ。

「とにかく食料と地図をくれ、前の町で稼いだ金があるからさ」

「貴様は言葉が分からんのか!とにかく立ち去らなければ、貴様はここで死ぬぞ」

兵士がにらみつける。どうやら本当に武力行使も辞さないようだ。

「けど、このまま追い返されたら、俺は飢え死にするんだけどなぁ。ここは千歩譲って町に入らないから、せめて食料だけでもわけてくんねぇか?」

それでもカリューは交渉を続ける、顔には槍を向けられていても笑みが浮かんでいる。

「駄目だ!」

「さっさと立ち去れ!」

(ちぇ、やっぱダメかな、こりゃ。)

カリューは、はぁ、とため息をつく。顔からは笑みが消えた。

「…わかったよ。町には入れない、食料もくれない、俺は飢え死にしろと。」

「その通りだ。我々は上から『ここに来る奴はすべて追い返せ』と命令されている。せめて飢え死にならないように祈っててやるよ。」

3人の兵士は笑いながらそう言った。その時、兵士達の戦闘体制がとける。その瞬間、カリューの顔には再び笑みが浮かんだ。その隙を見逃さず兵士に迫り、マントの下から剣を抜き、兵士の一人の首を跳ね飛ばし絶命させる。一瞬のことだった。

「な、貴様!不意打ちだと!」

「餓死なんてカッコワルイのはゴメンなんでね。俺の代わりに死んでもらうことにするよ、この村すべての兵士たちになぁ!」

そう言って、剣を兵士の一人に向ける。彼はやはり笑っている。だが、さっき浴びた返り血がその笑みを不気味なものに変えている。

「せめて苦しまずに殺してやるからな」

「ふざけるなぁ!」

二人の兵士が同時に向かってくる。カリューを二本の槍が襲う。しかしカリューは顔色一つ変えず、笑みを浮かべたままだ。

「俺に戦いを挑む奴は、みんな殺すぅ!」

カリューは軽やかな身のこなしで槍を軽々よける。そして二人の攻撃をかいくぐり接近した後、カリューは剣を振る。二人の兵士が同時にうめき声を上げた。カリューはマントの下からもう一本剣を取り出し、二本の剣で二人を切りつけたのだ。そう、カリューは二刀流の使い手だった。

「まぁ、こんなもんだろうな」

カリューは二本の剣の血を払い落とし、たった今斬りつけた3人を見下ろす。二人は死んでいるが、1人はまだ生きているらしい、うめき声をあげている。

「おやおや、まだ死んでねぇのか。やっぱり空腹で剣が鈍ったのかねぇ…。悪いな、苦しまずに殺してやろうと思ったんだがなぁ。」

「うぅ…たす、け…」

兵士は息も絶え絶えに懇願する。

「や~なこった。さっさと死んどけ。」

兵士の顔が恐怖に染まる。そしてその顔めがけ、剣が振り下ろされる。紅い血が飛び散った。

「うーん、まだ準備運動がたりねぇなぁ。なんてったってこれから基地攻略戦をやるんだし。まぁいいか。空腹も相俟って、いいハンデになりそうだ。」

町の中が騒がしくなってきた。どうやら一連の出来事が監視されていたらしい。奥から兵隊が向かってくるのも見える。

「おーし盛り上がってきたな。楽しくなりそうだ!」

カリューは二本の剣を構えなおし、兵隊に突っ込んでゆく。

 

 一人の冒険者VS軍事大国の鉱山基地。はたから見ればあまりにも無謀な戦い。しかし、青年は全く恐れない。もちろん、顔には笑みが浮かんでいる…。

 

 彼はカリュー・ライコネン。敵対する相手は誰であろうとためらうことなく殺す。悪名高き冒険者。そしてその実力は、数多冒険者の中でも1,2を争うといわれる。

通称「災厄の男」                    [to be continued…]


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