CALAMITY・著・不来目(①~⑥)
「やれやれ、まいったねぇ。」
山道を歩く青年がつぶやく。困惑の言葉とは裏腹に、彼の顔には笑みが浮かんでいる。
彼は冒険者だ。自分の気が赴くまま、道のあるなしに関係なく自由に世界を歩き回り、それを生きがいとする人々を世の人々はこう呼ぶ。しかしそれは同時に、町に定住することの無い放浪者、いわば世間のはみ出しもの。世間の人々の中には彼らをよく思わない人も大勢おり、訪れる町で冷たい視線を送られることもしばしばである。もちろん当の冒険者たちはそんなものは気にしないが。
この世界では町は世界のあちこちに散在しており、町と町をつなぐ街道や鉄道はごくわずかの都会にしかない。よって、冒険者達の旅は道なき道を行くことになることが多いが、道中は荒野に巣くう凶暴な魔物に襲われることもしばしばである。冒険者達の旅は命がけなのだ。しかし、一人前の冒険者は、そんな旅でも恐れはしない。むしろ笑みを浮かべながら楽しむのだという。
この青年もその一人。まだ若いが、かなりの腕の持ち主である。しかし、今回の旅では珍しくミスを犯した。前に滞在していた町で次の目的地を決め、準備万端で出発したのだが、途中地図をなくしてしまったのである。記憶を頼りに進んでみるも目的地は見えず、食料も尽きてしまった。仕方なく山道に入り食料を探すことにし、何とか水源を発見し水は確保したものの、季節は冬、食料となりそうな動物や木の実などはなかなか見つからず、空腹のまま歩き回っているうちに、道に迷ってしまった。最悪の状況である。
「ついに俺の悪運も尽きたかなぁ~」
と、青年はつぶやく。だが相変わらず顔には笑みが浮かんでいる。迫り来る餓死の恐怖などなんのその、自分の死を恐れず、むしろこの先自分はどうなるのか、近い未来を楽しみに待っている。そんな気持ちで旅を続けている。
「…おや、どうやら前言撤回かな?」
日も暮れてきたころになり、ついに彼は整備された街道を発見した。今まで見てきた都会の街道と比べるとかなり見劣りするので、それほど大きくはないようだが、町が近くにあるのは間違いない。どうやら彼の悪運とやらはまだ尽きていないようだ。
街道をやや速足で歩いてゆくと、案の定、町―というよりは村といったほうがいい大きさではあるが―が見えてきた。とりあえず飢え死には避けられそうだ、と、青年はさらに足を速める。
門付近まで来た青年の目に映ったのは、鎧を纏い槍を持った見張りの兵の姿だった。しかも3人もいる。
(小さな村にしては、警備が厳重だな、装備もかなりいいもの使ってるし。…まぁどうでもいいか。)
などと思いながら、とりあえず兵士のところへ行ってみる。すると、3人の兵からいきなり槍を向けられてしまった。
「何者だ!貴様は!」
「なにものって、俺はカリュー=ライコネン。世界を又にかける天才冒険者さ、けど今は天才らしからぬミスで…」
「黙れ!この鉱山町は部外者一切立ち入り禁止だ!」
(なるほどここは鉱山町なのか、しっかしいくら冒険者だからって、態度悪すぎだなぁ)
冒険者は町の人々から冷たい目で見られはするが、彼らは村の力仕事の働き手を引き受けたり、魔物を退治したりして金を稼いだりするため、彼らを迎えることで町にとっても有益なこともある。大歓迎されることは無いが、こんな対応を受けたりすることも無い。
とりあえず青年カリューはもっと様子を見ることにする。
「いきなり戦闘体制ってのはやめてほしいねぇ。とにかく話を聞いてくれよ、サルも木から落ちるって奴でさ、道に迷って…」
「問答無用だ!ここはバラクート帝国が支配しているのだぞ!」
「んな国知らねぇよ。」
とカリューは答えたが、バラクート帝国というのはカリューも知っている。武力行使で次々と領土を拡大する軍事大国で、どの国とも友好関係がない孤立した国だ。実態もよく分からない国で、実際に行ってきた冒険者達の話を聞いても評判はよくない。そういえば数年前に鉱山町を占領したと話題になったことを思い出した。どうやらそれがここのようだ。
「とにかく食料と地図をくれ、前の町で稼いだ金があるからさ」
「貴様は言葉が分からんのか!とにかく立ち去らなければ、貴様はここで死ぬぞ」
兵士がにらみつける。どうやら本当に武力行使も辞さないようだ。
「けど、このまま追い返されたら、俺は飢え死にするんだけどなぁ。ここは千歩譲って町に入らないから、せめて食料だけでもわけてくんねぇか?」
それでもカリューは交渉を続ける、顔には槍を向けられていても笑みが浮かんでいる。
「駄目だ!」
「さっさと立ち去れ!」
(ちぇ、やっぱダメかな、こりゃ。)
カリューは、はぁ、とため息をつく。顔からは笑みが消えた。
「…わかったよ。町には入れない、食料もくれない、俺は飢え死にしろと。」
「その通りだ。我々は上から『ここに来る奴はすべて追い返せ』と命令されている。せめて飢え死にならないように祈っててやるよ。」
3人の兵士は笑いながらそう言った。その時、兵士達の戦闘体制がとける。その瞬間、カリューの顔には再び笑みが浮かんだ。その隙を見逃さず兵士に迫り、マントの下から剣を抜き、兵士の一人の首を跳ね飛ばし絶命させる。一瞬のことだった。
「な、貴様!不意打ちだと!」
「餓死なんてカッコワルイのはゴメンなんでね。俺の代わりに死んでもらうことにするよ、この村すべての兵士たちになぁ!」
そう言って、剣を兵士の一人に向ける。彼はやはり笑っている。だが、さっき浴びた返り血がその笑みを不気味なものに変えている。
「せめて苦しまずに殺してやるからな」
「ふざけるなぁ!」
二人の兵士が同時に向かってくる。カリューを二本の槍が襲う。しかしカリューは顔色一つ変えず、笑みを浮かべたままだ。
「俺に戦いを挑む奴は、みんな殺すぅ!」
カリューは軽やかな身のこなしで槍を軽々よける。そして二人の攻撃をかいくぐり接近した後、カリューは剣を振る。二人の兵士が同時にうめき声を上げた。カリューはマントの下からもう一本剣を取り出し、二本の剣で二人を切りつけたのだ。そう、カリューは二刀流の使い手だった。
「まぁ、こんなもんだろうな」
カリューは二本の剣の血を払い落とし、たった今斬りつけた3人を見下ろす。二人は死んでいるが、1人はまだ生きているらしい、うめき声をあげている。
「おやおや、まだ死んでねぇのか。やっぱり空腹で剣が鈍ったのかねぇ…。悪いな、苦しまずに殺してやろうと思ったんだがなぁ。」
「うぅ…たす、け…」
兵士は息も絶え絶えに懇願する。
「や~なこった。さっさと死んどけ。」
兵士の顔が恐怖に染まる。そしてその顔めがけ、剣が振り下ろされる。紅い血が飛び散った。
「うーん、まだ準備運動がたりねぇなぁ。なんてったってこれから基地攻略戦をやるんだし。まぁいいか。空腹も相俟って、いいハンデになりそうだ。」
町の中が騒がしくなってきた。どうやら一連の出来事が監視されていたらしい。奥から兵隊が向かってくるのも見える。
「おーし盛り上がってきたな。楽しくなりそうだ!」
カリューは二本の剣を構えなおし、兵隊に突っ込んでゆく。
一人の冒険者VS軍事大国の鉱山基地。はたから見ればあまりにも無謀な戦い。しかし、青年は全く恐れない。もちろん、顔には笑みが浮かんでいる…。
彼はカリュー・ライコネン。敵対する相手は誰であろうとためらうことなく殺す。悪名高き冒険者。そしてその実力は、数多冒険者の中でも1,2を争うといわれる。
通称「災厄の男」
次々に兵士が突進してゆく。しかし、その目標である侵入者カリューはものともしない。二本の剣を振り回し、迫り来る兵士達を次々と切り捨て、殺していく。殺すことには何のためらいも無い。既に部隊の4分の3は始末していた。
「どうしたぁ?死にたい奴からかかってこいよ!」
仲間のほとんどを殺され恐怖におびえる兵士に向かい、カリューは威嚇する。顔には相変わらず笑みが浮かぶが、そのプレッシャーは強力だ。その迫力に押され、兵士達は動きを止める。
「どうした、腰でも抜けたか?ボサッとしてると、こっちから行っちまうぞぉ!」
今度はカリューが兵士達に突進、しかし兵士達に立ち向かう覇気はもう無い、悲鳴を上げるものもいれば、逃げ出そうとするものもいた。しかしカリューはそんな兵士も一人残らず斬り捨てる。気づけばあたり一面、どす黒い血の海に変わり果ててしまっていた。
「ん~、思ったよりも歯ごたえがないなぁ。」
カリューは剣にべっとりとついた血を払い、一息つく。
「これで終わりじゃないだろうが、新手が来るまで…」
そうつぶやいたとき、周りの物陰から一斉に兵の群れが現れる。どうやらそこで屍に成り果てている部隊との交戦中に、ひっそりと取り囲まれたらしい。
「完全に包囲したぞ、侵入者め!さぁ、おとなしく降伏しろ」
周りからいくつもの剣、槍、弓がカリューに向けられる。しかしカリューは動じない。
「こいつら殺してるうちにこっそりと包囲していたか…。うん、いい作戦だよ。いいんだけどね、俺を降伏させるにはザコをいくら寄せ集めても意味が無えな。」
「減らず口を…射手、矢を放て!全軍、突撃!捕らえろっ!」
矢が放たれ、何本もの矢がカリュー目掛け一直線に飛ぶ。しかしカリューは滑らかな動きでそれをかわし、かわしきれない分は二本の剣ではじく。まるで矢の通過点が分かっていたかのように。
「天才の俺には弓は通用しねぇんだよ!」
カリューは手にした二本の剣を構え、四方から迫り来る兵士達を迎え撃つ。
「侵入者の件はどうなった?」
屈強な男が部下に尋ねる。この男が兵士団長であり、この基地を取り仕切る司令官でもある、サッバーノ=ロカテッリである。少し前に進入者が現れたと聞き、すぐに兵を向かわせたのも彼である。
「ただいま、C地区にて第2、3白兵隊、第5弓兵隊と交戦中とのことです。そして、すでに第1白兵隊は全滅したと…。」
「全滅!?進入者は一人なのだろう?」
驚きを隠せなかった。この基地の部隊は当然本国のそれに比べたら戦力は劣るが、決して弱い兵士が配属されているわけではないし、数も多くは無いがたった一人に全滅させられるほどの人数でもない。にわかには信じられない話だ。
「私も信じられません、事実です。…侵入者は流れ者のようで、二刀流の使い手だとか」
「二刀流の流れ者…か。」
サッバーノは脇においてある巨大な槍をつかむ。彼の槍は穂先に斧もついているハルバードと呼ばれるものだが、大きさは一般のものよりかなり大きい。
「司令官!?まさか直々に…?」
「あぁ、部下達の仇をとりに行く。私一人で十分だ。第4白兵隊、第6弓兵隊は引き続き奴隷の見張りだ。」
「一人ですか?いくら『王の槍』といえど、一部隊を全滅させるような奴に…」
「十分だ」
今までよりも低い声で、男は言う。
「し、失礼しました!」
「…それと、第6特別部隊を念のため召集しておけ。万一私が倒れた場合、ウェア隊長を中心に残存部隊をまとめ本国に撤退するよう伝えておけ。」
部下には顔を向けず、サッバーノは部屋を出た。
あたり一面に死骸が大量に転がり、血の臭いが立ち込めていた。その光景はまるで地獄のようだ。
「ふぅ、思ったより時間がかかったなぁ。さすがに疲れたぜ。」
カリューはたった一人で兵隊を全滅させていた。しかし大部隊との交戦も終盤になってくると、動きが全体的に鈍っているなと感じていた。まぁ一日何も食べずに歩き回っていた体では無理も無い。いくらカリューが強いといえども、疲れや空腹には勝てないのだ。
「いい加減に飯にありつきたいもんだが…ん?」
前方から背の高い屈強な男が一人、巨大な槍を携えてこちらへ向かってくる。見るからに只者ではなさそうだ。
「お、なかなか骨のありそうなのが出てきたなぁ」
サッバーノはカリューの元にたどり着くや否や、カリューを見るより先に奥の地獄を見た。鋭い目つきが、さらに鋭くなる。
「貴様か、侵入者とやらは。」
落ち着いているものの、その言葉にはどこからか怒りがにじみ出ているのをカリューは感じ取った。
「よくもここまで私の部下をやってくれたな…」
「『私の部下』ってことは、あんたが兵士団長さんかな?部下達は立派な殉職を遂げたぜ。なんせ無謀とわかってて天才の俺に刃向かったんだから。」
「ここまで酷い真似を…。何も皆殺しにする理由は無かったと思うが?」
「あるさ。」
カリューは顔は笑みのまま、男をじっと睨む。
「戦うときはお互いの命を賭けないと、戦いのスリルが減っちまうだろう?」
「何だと!?貴様は殺し合いが楽しいと言うのか!」
男の声が自然と大きくなる。
「ああ、命を賭ける瞬間ってのは、なによりもスリリングですばらしいと思うぞ。」
「…やはり貴様のような外道はここで殺すべきのようだ、災厄の男!!!」
「ほぉ、俺はあんたを知らないが、あんたは俺を知ってるのか。やっぱ俺って超有名なんだぁ~。」
カリューは悪名高き冒険者。彼と戦えば、必ずその二本の剣の餌食となり生き残ることは出来ない、そう全国各地に知れ渡っている。そしてその強さ、非道さ故に、いつの間にか「災厄の男」と呼ばれるようになった。
「ほざくのも今のうちだ。お前のその剣では、このハルバードを受け止めることはできん。お前に勝機は無い!サッバーノ=ロカテッリ、参る!」
サッバーノは彼の背丈の2倍以上はあるハルバードを軽々振り上げ、構える。確かに彼のハルバードにかかれば、カリューの持っている剣など一撃で破壊されるだろう。
「さぁ、それはどうかな?なんせ俺は、人の手ではどうすることも出来ない災厄なんだからなぁ!」
カリューも二本の剣を構えなおす、その様はどこか楽しそうであった…。
咆哮とともに、巨大な槍が振り下ろされる。刃は地面に突き刺さり、土をえぐる。土埃を豪快に巻き上げながらサッバーノはすぐさま槍を構えなおし、カリューに踏み込む隙を与えない。
「…なるほど、なかなかの運動能力だ。」
「そりゃ、どうも。そういうおっさんもやるじゃないの。さっきからおっさんの間合いに入ったら、おっそろしいスピードで槍が飛んでくるからなぁ。それ以上入り込めやしねぇ。剣で受け止めたら、まず間違いなくへし折られるだろうしな。」
「ふむ、判断も冷静だ。戦士としてこれほど優秀な素質を持つものもそうはいないが…。」
「だろう?なんたって俺は天才だからな。」
「貴様はここで殺しておかなければいかん!」
今度はサッバーノから攻撃を繰り出す。巨大な槍をまるでムチのように扱い、次々とカリューを狙い振りまわす。これまでは軽々かわしてきたが、さすがのカリューもこのすさまじい連続攻撃をすべては避けきれず、やむなく槍を剣二本で受け止める。その瞬間、甲高い音が響き渡る。予想通り二本の剣が折れた。受け止めた際に生まれた一瞬の静止時間を使い、カリューはなんとか身をひねり直撃を免れ、すばやく距離を取るが、態勢を立て直したその時わき腹に痛みが走る。槍の刃はカリューの胴をかすめていたのだ。カリューの顔から笑みが消える。
「…ちぃ、この程度の攻撃で…。」
「直撃したと思ったがな。だが、武器も失った。もう終わりだな、災厄の男!」
サッバーノが槍を構えなおし、間髪入れず再びカリューに向かって駆け出す。あれほどのすさまじい連撃を繰り出した直後にもかかわらず、息一つ乱れていない。
「終わりだと?」
カリューは笑う。しかしそれはさっきまでの笑みとは違い、どこか不気味なものを感じる。
「ボロボロの剣をへし折ったぐらいでいい気になんなよ、おっさん。」
カリューは後方へ駆ける。その先には兵士達の屍骸が転がっている。そこには兵士達が生前使っていた剣や槍ももちろん散乱していた。
「悪あがきを!剣を拾い上げる隙に、私の槍がお前を貫くぞ!」
カリューは一番近くに落ちていた剣に向かい、体をかがめる。しかし、サッバーノもすばやく近づく。かがんだカリュー目掛け、槍を突き出す。ついに仕留めた、サッバーノはそう思った。しかし、槍が突き出た場所にはカリューの体はない。
「惜しかったなぁ、こっちだ!」
「何!馬鹿な!」
何が起こったか、サッバーノはすぐに理解した。カリューは剣を拾い上げる瞬間ねらわれることを最初から読んでいた。だからかがんで剣を拾い上げるふりをし、すぐさま横っ飛びでかわしたのだと。彼はカリューの飛んだ方向を見ると、すでに剣を二本、拾い上げていた。
「敵ながらすばらしい判断だった。それに、その傷でそこまで動けるとはな…。」
裏をかかれたにもかかわらず、サッバーノに動揺した様子は無い。
「油断したかな?確かに傷は痛むけど、そんなもんで冒険者はつとまらねぇんだよ。」
カリューは拾ったばかりの剣を構える。傷の痛みなどまるで無いかのようだ。
「調子に乗るな、お前が劣勢なのには変わりは無いぞ。」
サッバーノも槍を構え、カリューと向かい合う。カリューは動じることなく、そんな彼をにらみ返す。
「まだ俺が劣勢と決まったわけじゃないぞ?もちろん俺は逆境にも強いけどな。」
相手に向かい駆け出し、そのまま突っ込む。顔には笑みが浮かんでいる。
「馬鹿げた事を!何度やっても同じだ、お前の間合いには入れさせん!」
カリューを巨大な刃が襲う。カリューは一振り目をすばやい動きでかわし、再び突進。サッバーノも再び連続で槍を振り、カリューを近づけない。
「何度やっても同じだ!今度こそ仕留めてやる!ぬおおぉぉぉ!!!」
大きく叫びながら、カリューめがけ槍を振り下ろす。その瞬間、カリューはにやりと笑った。ほぼ同時に、地面に巨大な刃が突き刺さる。カリューは槍を剣で受け止めるのではなく、受け流したのだ。そして受け流すと同時に一気に踏み込み、カリューの間合いに入り込むことに成功していた。
「調子に乗ってたのはおっさんのほうだったな!とっくに動きを見切ってたんだよ!」
二本の剣が舞う。カリューは確実に鎧の隙間をねらい、斬る。サッバーノはうめき声を上げて片膝をついた。カリューはさらにすばやく剣を突き出し、追い討ちをかける。
「終わりだな!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」
そこへ怒号とともに槍の柄が突き出された。傷を負いながらも必死で繰り出す、サッバーノのまさに執念の反撃だった。しかしその執念も実らず、カリューのすばやい動きによりかわされてしまった。
「っと、残念だったなぁ。」
カリューは一度は止めた剣を彼の両手に振り下ろす。血が飛び散り、巨大な槍が音を立てて地面に落ちた。
「最後の一撃くらい予想してたさ。これでもうさすがにもう槍を振り回せないだろう?」
「勘もいい、か…恐れ入った…。『王の槍』たる私を破るとは…噂以上だったな、災厄の男。」
「なんてったって天才だからな。まぁ、おっさんもよくやったよ。」
カリューは剣を構えなおしながら答える。その様子を見たサッバーノは堂々と彼を見る。おびえてはいないようだが、表情はどこか険しい。
「さっさと殺せ災厄の男。俺は死を恐れはせん。貴様は戦った相手の命は必ず奪うのだろう?」
カリューは笑みを浮かべ、サッバーノに近づく。
「なかなかいい戦いだったな、楽しかったぜ。あばよ!」
剣が振り下ろされる。血飛沫をあげ、サッバーノの首が地面に落ちた。
「しかし予想以上に疲れたな、一撃もらっちまったし。空腹と疲労のハンデがあるとはいえ、ここまでの強敵は久しぶりだったな…。」
カリューは剣を鞘に収める…が、鞘に納まらない。そういえば一度剣を折られたな、と苦笑いを浮かべる。
「…新手もいないようだし、少し休みてぇな。」
カリューは再び歩き出す。周りはすっかり静かになっていた。
司令官サッバーノ=ロカテッリの戦死により残存部隊は基地から撤退し、バラクート帝国の支配していた鉱山基地はここに開放された。冒険者カリュー=ライコネンは結局たった一人で基地攻略戦を成功させてしまったのだ。その後カリューは食料を求め基地内を徘徊しているうちに、強制労働を強いられていた奴隷達を発見した。帝国から解放されたことを知ると彼らは歓喜した。
「もともとこの町は、鉄を作り出して生計を立てていた町でした。ここの鉄はそこらのものよりもかなり上質なもので、いい値で売れたものです。帝国はその鉄に目をつけ、3年前にこの町を占領しました。この鉄を武器の材料にするつもりだったのでしょうな。」
元町長を名乗る中年の男が、食事中のカリューに事のあらましを告げた。カリューは夢中で食べながらも、話はちゃんと聞いているようだ。
「もともとあの国は技術力が高いらしいからな、いい素材が手に入ればこんないいものが出来るわけか。」
カリューは食事の手を止め、腰に下げていた剣を抜き、刀身を見る。自分の持っていた剣は折れてしまったため、兵士の持っていた剣をそのままいただいたのだ。その剣の刃は鋭く、美しく輝いている。
「なかなかの出来だよ、大量生産でこのレベルとは、恐れ入る。…まぁ、真の天才は武器を選ばないものだけどな。」
カリューは笑いながら言う。実際、カリューの使っていた剣は一般的な武器屋で売っている普通の剣で、たいした得物ではなかった。そんな剣は切れ味もよくないし、すぐに折れてしまうものだが、カリューが使えば魔物を真っ二つにし、また、丹念な手入れで剣を長持ちさせることができた。
「で、何の話だったっけ…。ああ、それで帝国に占領されて3年たったって話か。」
カリューは剣を鞘に収め、再び食事に戻り、話も戻した。
「はい、一度は反乱を試みたのですが、司令官のサッバーノが直々に鎮圧に現れました。殺さないように気を使っていたのか、武器も持たずたった一人で現れたのですが、あっという間に私達は取り押さえられました…。あの男を倒すとは、あなたは本当にお強いのですね。」
「天才だからな。」
カリューはもうお決まりの決まり文句を笑みをうかべながら言った。
「死体の処理には少々困りましたが…。」
元町長は苦笑いを浮かべながら言う。カリューは声を出して笑った。
「それであなたはこれからどうされるおつもりですか?」
食事を食べ終え一息つくカリューに、元町長が尋ねる。
「俺は冒険者だぞ、次の目的地へ向かうにきまってるさ。」
「しかし、バラクートがこの鉱山をこのまま手放してしまうでしょうか…。私にはそうはとても思えません。」
「そうだな。まぁそれはそれ、俺は俺。知ったことか。」
カリューの顔に浮かぶ笑みがシニカルなものへと変わった。
「もともとあんた達を助けるために暴れたわけじゃないし。俺はただ食料を手に入れるため、そして強い奴との殺し合いを楽しむためにやったんだよ。」
カリューは平然とそう言った。元町長の顔に驚きとともに恐怖が表れる。
「殺し合いを…楽しむ?」
「まぁな、生死を分かつというか、殺し合いのあの瞬間にはなんとも言いがたい快感があるんだよ。俺はそれが好きなんだよ、一般人から見れば異常なんだろうが…。まぁそれが分かってても、快感を感じちまうんだからしょうがねぇ。」
元町長は黙って聞いているが、カリューの静かな勢いに押されて何もいえないようである。
「おっさん、そんなに怖がらなくていいぞ。なにも人殺しに快楽を覚えているわけじゃない。俺はただ生死を賭けた戦いが好きなんであって、人を殺すこと自体はどうでもいいんだよ。俺が戦うときは生死をかけるというのが前提だから、負けた相手には死んでもらうことにしているが。」
「は、はぁ。」
元町長はようやく口を開くが、そこからやっと出てきたのはその一言だけだった。彼は静かにそう話すカリューに言いようの無い恐怖を感じ、固まってしまっていた。そして、カリューの言うことはあまり理解できない。それを察したのか、それとも話す前から分かっていたのか、カリューは苦笑いする。
「まぁ、共感しろとは言わないがな。他人の感覚なんて分かろうと思っても分かれないものだ。とにかく俺は俺の楽しみのために生きるんだよ。確かにここに残ってバラクートの軍隊とやりあうってのも面白そうだが、そんな回りくどいのは俺の趣味じゃない。」
元町長はその言葉を聞き落胆する。しかし、それを吹き飛ばす驚くべき言葉が続いてカリューの口から出た。
「それよか、本国に乗り込んで暴れたほうが面白そうだ。」
カリューは表情を変えずさらりと言ったが、元町長は目を丸くして一瞬言葉に詰まる。
「な、何を言ってるんです!いくらなんでも無茶ですよ!」
「なんでだ?」
「だいたい本国にはこことは比べ物にならない数の兵士がいま…」
「所詮雑魚の寄せ集めだ。そんなもんは問題じゃない。」
「最強の配下たちだって…」
「最強?」
カリューはその2文字に敏感に反応する。
「ええ、奴隷の時に兵士達が話しているのを聞いたことがあります。なんでも、バラクート帝国には凄腕の兵士を集めて組織した[エンペラーズ・アーム]という組織があるそうです。あのサッバーノもその一人だとか。あいつと同等、下手したらそれ以上の強者揃いの組織だそうです。いくらあなたが強いといっても、そればかりは無茶…。」
「おっさん、あんた頭よくないだろ。」
カリューはさっきとはうって変わりよくしゃべる元町長をとりあえず黙らせてから、やれやれ、とため息をつく。
「これまでの話の流れをしっかり把握してりゃ、そんなことを言ったらどうなるか分かると思うんだがなぁ?」
カリューはにやりと笑う。
「俺はこれからここがどうなるのかなんてどうでもいい。あんた達も俺がどうするかなんてことはどうでもいいと思え。食料探して暴れてたら結果的にたまたま助ける形になっちゃった、なんてことに恩を感じる必要もない。恩を感じるなら、旅の準備をさせてもらうだけでいい。」
カリューはそう言って立ち上がり、扉に向かって歩き出した。
「どちらへ?」
「一時の休息はもう終わり。目的地が決まったら、準備に入るんだよ。」
バラクート帝国の首都、アムダガダンでは、いつもと変わらず―いや、いつも以上の兵隊達がうろついている。あちこちに武力行使をしかけ領土を拡大してきたが、最近は他国からの反撃も激しくなっており、いつ他国からの奇襲があるかも分からない上、最近ではテロ活動も頻繁に起こるようになってきたからだ。少し前には、鉱山基地が奪還され、そこに駐屯していた「エンペラーズ=アーム」の一人もやられたという報告もあり、警備の厳重さに拍車がかかっていた。常に兵士達が街中で目を光らせているため、街の中は殺伐としている。世界中を旅する冒険者達も、そんな雰囲気を嫌い最近はめったにバラクート領には近寄らなくなってきた。
アムダガダンにも酒場がある。しかしそこに今客はいない。もうすぐ勤務を終えた兵士が酒を飲みに来るからである。兵隊がいるところで飲むと酒がまずくなる、といって夕方からはめったに客が来ない。酒場の主人も兵隊を相手に商売するのはいい気分ではないが、冒険者が遠のいている現在、主人にとっては貴重な客であるし、店を閉めれば酒を飲みたがる兵隊達に何をされるか分からないため、毎日商売しないわけにはいかない。主人が忙しくなる時間の前に仕込みをしていると、客が一人入ってきた。主人は顔を上げ、声をかける。
「お、この時間に客とは珍しいな。しかも見たところ、冒険者だな。ますます珍しい。」
「そんなに珍しいか。こんなこと言うのもなんだが、やっぱこの街に誰も来たくないのかな?兵隊がうろうろしてるし、街の居心地が悪いったらねぇや。」
「それは俺達一般人もだ、まぁ自由を愛する冒険者ならなおさらそうかな。しかしな、今からその兵隊が飲みに来るんだが、それでもここで飲みたいか?」
「じゃあ兵隊が来るまでに飲むよ。」
客はそのままカウンター席に座ると、ビールを注文した。それからマントを脱ぎ、隣のイスに置く。
「ほぉ、二刀流か。ホントに珍しい客だな。」
主人が客の腰に下げられている二本の剣を見て言う。二刀流は二本の剣を扱う腕力と技術が必要なため、使い手はそう多くなく、また荷物が多くなるのを嫌う冒険者ならさらに少ない。
「まぁね、俺は天才だから。」
「ふははは、面白いなあんた。名前は?」
「カリューだ、よろしく。」
カリューは名前をいい、差し出されたビールを受け取り一気に飲み干した。そしてそのままもう一杯注文する。
「ところでおっさん、ここに兵隊が来るって言ったが、『エンペラーズ=アーム』ってのは来るのか?そいつらと是非一戦交えたいんだが。」
その言葉を聞いた瞬間、主人は一瞬動きを止め表情を変える。
「…バカなことを言うな、あいつらは普通じゃない。あいつらがいるからこそこの国が戦争で連戦連勝しているといっても過言じゃないんだぞ、いわばこの国の軍隊の要だ。返り討ちにあうに決まってる!」
主人は険しい表情をしたたま一気に言い、ビールをカリューの前に置く。
「それを飲んだらこの国を発つといい。ここにいてもいいことなんてないぞ。」
カリューはそのビールを一口飲み、にやりと笑う。
「…来ることを否定しないってコトは、そのうち来るってことでいいのかな?」
カリューは懐から純金製のエンブレムを取りだし、主人に見せる。そのエンブレムには槍がかたどられ『EMPEROR’S SPEAR』と刻まれている。これは、鉱山街のサッバーノの部屋にあったもので、鉱山基地を発つ前、売れば旅金の足しになるだろうと街の人が礼として渡してくれたものだ。しかし売らずとも金はある程度持っていたため、ここまで来てもそのまま手元に残っていたのである。そのエンブレムを見た主人は目を丸くする。
「これは…『エンペラーズ=アーム』のエンブレム!…鉱山基地のひとつが陥落し、『槍』がやられた、と酔った兵士が言っていたが…まさか…。」
カリューはビールを飲み干し、にこりと笑う。そして酒代をテーブルに置き席を立った。
「じゃあ、酒場の前で待たせてもらうよ。店の中で戦うのはやりにくいからな。」
主人に背を向けて、カリューは歩き出す。
「…もうすぐだと思うが、今日は『王の剣』がやってくる。とてつもなく巨大な剣を振り回す恐ろしい男だ。戦場では一人で敵の半数と渡り合ったらしい。飲みにくるときでも自慢の大剣は身に着けている。」
主人がカリューの背中に向かい言うと、カリューは右手を挙げ、感謝の意を示す。
大剣を持った巨漢が独り現れた。その剣はすさまじい大きさで、それなりに身長があり、体格もいいカリューよりも一回り大きいほどだ。あんなものを振り回すどころか、持ち上げることが出来るものなどどこにもいなさそうである。しかしその巨漢の男は平然と背中に背負っている。カリューは酒場に向かうその男の前に立ちふさがった。
「何だ貴様は。邪魔をするならたたき斬るぜ?」
男が鋭い目つきで、低い声でそう言った。カリューはにやりと笑い、懐に手を入れた。
「俺は冒険者。最近こういうものを集めているんだが―」
そう言うと、「槍」のエンブレムを取り出し、男に見せる。男は一瞬驚いたようだが、すぐに笑い始めた。
「くくく…『槍』のやつ。こんな奴にやられたのか…こんな弱そうな奴に…。あいつ出張中に訓練サボってやがったな…。昔は俺と互角の勝負をしてたんだがな…。」
「あんたはあのおっさんよりも強いみたいな言い方だな、楽しみだ。」
カリューは二本の剣を抜き、構える。顔にはいつものように笑みが浮かんでいる。
「くくく…面白い!俺とやろうって?…ふはははは…」
『王の剣』はその巨大な剣をカリューに向けて振り下ろす。剣はその体積にもかかわらず、とんでもない速さで弧を描く。カリューはそれをバックステップでかわす。カリューのいたところに剣は突き刺さり、地面を削る。サッバーノの槍と同等、もしくはそれ以上の威力だ。
「さすが…だが。」
「だが、なんだ?今度こそ真っ二つだ!」
『王の剣』は再び大剣を振りかぶり、すさまじい勢いで振り回す。しかしカリューは平然とかわしつづける。カリューの顔から笑みが消えた。
「…ふん、やはりその程度か。」
カリューはつぶやく。それを聞き『王の剣』は目つきをさらに鋭くする。
「何を言っている…って感じの顔だな。頭の悪そうなあんたに教えてやるよ。あんたの剣の破壊力は『槍』のおっさんよりも高いかもしれないが、スピード、キレ、リーチの長さは劣ってるんだ、スキもある。出張中にサボってたのはあんたのほうじゃないか?」
「なんだと!ふざけるな!うおぉぉっ!」
『王の剣』は剣を構えなおしカリューに向かい突進する。カリューは心底がっかりした顔でそれを迎えうつ。
「もう終わりにするか、これ以上続けてもつまらん。」
カリューも突進する。そのカリューに向かい大剣が振り下ろされるが、カリューはすばやい動きでかわし、一気に懐に飛び込む。
「もうひとつ、攻撃のパターンが少ないな。」
カリューはそう言い放つと、二本の剣を巧みに操り、男を切り刻む。男は剣を落とし、うずくまった。
「くだらねぇ、とんだ期待はずれだったぜ…。」
カリューは『王の剣』の首を切り落とした。その顔は実に不満げそうである。
第六話 「「災厄」vs「盾」「弓」 ROUND1
「…おかしいなぁ?」
カリューは城内へ続く道を歩きながらつぶやく。歩くといっても、周りへの警戒は怠らない。
「本拠地だというのに、なぜ兵隊が出てこない…?」
先程カリューは、正面突破で城に乗り込んだ。始めは「もう少し穏便にコソコソ潜入しようかな」などと考えていたのだが、先程倒した「剣」の男が期待はずれといっていいほど弱く、怒りがこみ上げ暴れたくなったのであった。そして門番や守備隊を蹴散らしながら進んでいったところ、すぐに兵隊が出てこなくなったのである。そういうわけで、カリューは広い城の敷地内を一人で歩いていた。とりあえずは正面に見える一番大きな建物の入り口を目指して歩いている。
建物の入り口にたどり着いても、入り口には誰一人いなかった。
「無用心…というか、不自然だな。」
誰にともなくそう言い放ち、中に入る。やはり中にも誰もいない…と思った矢先、カリューの目に一人の男が映った。その男はにこりと微笑み、カリューのほうに歩み寄る。彼の手には大きめの盾が握られている。
「ようこそ、きれいなお城でしょう、お気に召しましたか?」
男は微笑を崩さずカリューに話しかけてくる。
「…さぁ、どこもこんなもんだろう?」
カリューは男をにらみつけて適当に答え、言葉を続ける。
「あんたもエンペラーズ・アームと見たが、どうだろう?名前は『王の盾』かな?」
「さすがですね、カリュー・ライコネンさん。でも私の名前は『イタリ・ポポキンス』、『盾』は王から頂いた通り名です。」
「へぇ、俺を知ってるのか。やっぱり俺って有名人なのかな~。」
カリューはおどけて言ったが、二本の手は剣の柄にかけ、戦闘体制に入っている。
「カリュー・ライコネンといえば悪名高き冒険者『災厄の男』ということですが、個人的には私が戦争の前線で戦っていた時に噂になっていた『天災傭兵』カリュー・ライコネンのほうが印象深いですね。」
『盾』イタリは相変わらず微笑んでいる。敵が目も前にいるという状況下でその様子には殺気が全く感じられない。しかしカリューの手も相変わらず剣の柄を握っている。振る舞いがこうでも油断はできない男だ、と彼は感じていた。
「そんな通り名は初耳だ。確かに俺は天才だけど、この国の兵隊はダジャレのセンスがねぇなぁ。あと「傭兵」というよりはただのバイトだよ。昔金に困って仕事探してたら、いつのまにか兵隊に雇われちゃってね、それでちょっと金稼いだだけだよ。あん時は同業者からうるさく言われたものだ。『権力の下について自由な冒険者が聞いてあきれる』とかなんとか。まぁそんな理想論ばっかり言ってるバカの話なんか真には受けないけどな、あん時はマジでやばいときだったし…って、どうでもいい話をしちまったな。それよりもかかってこないのか?城内に兵隊がいなくなったから退屈し…」
警戒はしながらもぺらぺらと調子に乗って話していたカリューだったが、そのとき無意識に体が動いた。強い殺気を感じたわけではなかったが、戦士としての勘が働いたというべきか、無意識にステップで横に飛ぶ。一瞬後、後ろから矢が通り過ぎ、『盾』が通り名でもある盾でそれを受け止めた。
「だまし討ちか、なかなかいい作戦だったな。」
カリューはイタリと、後ろから矢を撃った男をちらりと見て剣を抜く。
「まぁ、あなたならよけるだろうと思ってましたよ。だからこそ私はすばやく盾を構えられたのです。なにしろサッバーノさんを倒したくらいですから、それくらいはできるはず。」
「お褒めに預かりまして大変恐縮です、ってか?後ろの男は『弓』かな?」
「そうです、名前は『ホンキーニ・タカタ』頼りになる男です。ちなみにエンペラーズ・アームに任命される前は暗殺部隊のエリートでした。」
「そうかい、…って、おおっと!」
カリューが『弓』からほんの少し目を離していたその時間で、彼は一気に接近し、ナイフをカリュー目掛け投げつけていた。しかしカリューもすぐさま剣で叩き落す。
「『弓』なのにナイフを使うなんていったいどういう了見だ?」
再びおどけて尋ねるカリューの質問に、イタリが答える。
「別に通り名とおりの道具しか使わないわけじゃないです。『槍』だって槍というよりは槍斧を使っていましたし、私も剣を使わないと、相手を倒せませんから。」
そういって、イタリは腰の剣を抜く。盾に隠れて見えなかったが、ちゃんと武器は持っていた。まぁそうだろうとはカリューも思っていたが。
「とにかく、あんたら二人で俺と戦ってくれるのかな?」
「ええ、サッバーノさんを倒すぐらいの腕ならば、私やホンキーニが一対一で戦っても勝てるかどうか分かりませんからね。…あ、ちなみに他の兵隊は引き上げさせました。どうせ無駄死にするだけでしょうし、一緒に戦っても足手まといでしょうからね。」
相変わらず微笑を絶やさず口を動かすイタリに、カリューはすばやく接近し右手の剣を振り下ろしていた。イタリもすばやく反応し、それを盾で受け止める。そこでカリューは動きを止めず、すばやく左に回りこみ、盾の横から左手の剣を突き出…そうとしたが、盾の脇から鋭い剣がすさまじいスピードで突き出された。カリューは何とか動きを止め、そのまま反対方向にステップし離れたが、そこに矢が飛んできた。体をひねりなんとか交わすものの、矢は少し顔を掠める。カリューはわずかに顔を歪めホンキーニのほうを見やる。すでに彼の弓には新たな矢がつがえられていた。
「余所見をしている場合ではないですよ!」
とイタリが叫ぶ。先程の微笑みはすでに消えており、その表情は『剣』よりも鋭い表情だった。盾を正面に構え、突っ込んでくる。カリューはその突進を二本の剣で受け止める、イタリはすばやく盾をひき、同時に剣を振り下ろす。カリューは剣で受け止めようと一瞬思ったが、すぐに思い直し斜め前に飛ぶ。イタリが剣を振ると同時にホンキーニが矢を放っていたのだ。それを予感しての判断だった。かわすついでに剣をイタリに向けて突き出すが、当然のようにかわされる。カリューはそのまますばやく間合いを取る。
「ナイスコンビネーションだ。なかなかやるな。」
カリューは今度は二人から目を離さずに言う。先程矢が掠めた傷からは血が出てはいるが、たいした傷ではない。
「なかなか…ですか。とても強い、と言ってもらいたかったですね。」
イタリが答える。先程の鋭い表情は、微笑みに戻っている。ホンキーニはイタリとは少し離れたところでカリューに狙いを定め、黙っている。
「さて、どうします。我々に勝てそうですか?」
つづけて言葉を発したイタリの問いに、カリューは即答する。
「勝てるさ。」
カリューの顔には、いつもの笑顔が浮かんでいる、しかし、すぐにその顔は苦痛にゆがんだものとなった。カリューはそのまま片膝をつく。
「…そうか、暗殺部隊出身とかいってたな。ってことはやっぱり…」
「当然毒くらいは塗ってある。」
それまで一言もしゃべらなかったホンキーニが口を開いた、そしてイタリがそれに続く。
「まぁ冒険者たるもの解毒剤くらいは持っているでしょうが、それを飲ませる猶予などはもちろん与えません。どうですか、あなたはとても不利です、それでも勝てると?」
イタリが微笑みながら、それでいてどこか勝気な表情でカリューを見下ろしている。カリューは毒で顔をゆがめながらも笑顔を作り、そしてこう答えた。
「もちろん、俺は勝てるさ。」
[…to be continued]